【未来の美食体験】和食のルーツに通じる「だし中華~Pinzhen’s」で、福建料理と日本ワインの未知なるペアリング

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先日、市ヶ谷にある話題のお店「だし中華~Pinzhen’s(ピンジェンズ)」に伺い、日本ワイン三種とのペアリングを堪能する勉強会に参加してきました。結論から言うと、「ワインといえばフランス料理や洋食」「日本ワインといえば和食」という固定概念を見事に塗り替える、驚きと新しい発見に満ちた素晴らしい体験でした。

■ 凄腕編集者・小林淳一さんが惚れ込んだ「おふくろの味」

今回、この素晴らしい機会にお誘いいただいたのは、お店をプロデュースされた小林淳一さんです。小林さんは、人気フリーマガジン『metromin.(メトロミニッツ)』や『東京カレンダー』、カルチャー誌『旬がまるごと』などの創刊編集長を歴任され、22年間にわたりメディア制作に従事されてきたベテラン編集者です。現在はその編集手腕を活かし、「草原の料理スヨリト」や「南方急行」といった本格的な中国料理店のプロデュースを数多く手がけられています。

「だし中華~Pinzhen’s」も、小林さんの確かな舌によって誕生しました。オーナーの林(リン)さんから相談を受けた小林さんは、現地・福建省を食べ歩いた結果、「やはり林さんのお母さん(陳 品珍さん)が作る家庭の料理が一番おいしい」と確信し、その味を忠実に再現するお店を提案されたそうです。店名も、お母さんの名前である「品珍(ピンジェン)」に由来しています。

■ 日本の「和食」のベースはここにあった!?出汁文化が光る福建料理

今回味わったのは、海と山が近い地形を持つ福建省の郷土料理です。 実は、福建料理と日本の食文化には、私たちが想像する以上に深く長い繋がりがあります。遡ること縄文時代後期〜弥生時代、中国南部から日本へ、現在の和食の根幹となる稲作(お米)やお餅、納豆や醤油のルーツとなる発酵大豆、お茶などが伝わったとされています。

さらに時代は下り、江戸時代初期には福建省出身の隠元禅師が「普茶料理」という中国風の精進料理を伝え、葛を使ったとろみや植物油を使った調理法が日本の和食に多大な影響を与えました。長崎の「ちゃんぽん」や「皿うどん」、豚の角煮、熊本の「太平燕」、沖縄の「ラフテー」など、九州や沖縄を代表する郷土料理の数々も、江戸〜明治時代に移住してきた福建省の人々の「福建料理」が直接的なベースになっています。古代の農耕・食文化の伝播と、近世のダイレクトな料理の伝来。この2つの歴史が組み合わさり、「福建料理は和食のベース」と言われるのも大いに頷けます。

リアス海岸の豊かな海から獲れる海藻や魚介類と、山地からの豚肉や鶏肉、キノコ類に恵まれた福建省。Pinzhen’sのお料理は、海苔や昆布のグルタミン酸、豚肉や鶏肉のイノシン酸、キノコのグアニル酸、貝類のコハク酸といった旨み成分を掛け合わせることで、味に深い奥行きを生み出しています。日本の出汁文化にも通ずる、「素材を生かす」「出汁を取る」アプローチによって作られた数々の料理は、とても新鮮でありながらどこか懐かしさを感じる、心安らぐ味わいでした。

■ なぜ「日本ワイン」なのか?出汁とワインの必然的な同調

香り豊かなお料理と、重なり合う濃厚な旨みを楽しむのに、日本ワインはこれ以上ないほどぴったりのペアリングとなりました。

そもそも、なぜフランスなどの自然派ではなく「日本ワイン」だったのか。 それは、福建料理の神髄が、素材を慈しみ出汁を重ねる「淡(ダン)」という美学にあるからです。日本ワイン特有の繊細な酸、そして「水のように体に馴染む」柔らかな質感は、福建料理の重層的な旨味とぶつかり合うことがありません。まるで一滴の極上な出汁を付け足すかのように、料理とワインが互いの境界線を越えて同調していく。この「引き算の美学」の共有こそが、日本ワインを選んだ最大の理由です。

今回は以下の3種の日本ワインをテイスティングしました。

  1. 三養醸造「甲州デュオ2024」(白ワイン) 山梨県産の甲州を100%使用した、淡い藤色の白ワインです。複数の素材を容器ごと蒸して出汁を取る名物スープ「炖罐(ドゥングァン)海带排骨(昆布とスペアリブ)」の澄んだスープと合わせると、開栓後の時間とともに現れるフルーティーな蜜や柑橘、樽のニュアンスが、素材の旨みをそっと引き立ててくれます。
  2. Natan葡萄酒醸造所「ケセランパサラン Forelske」(オレンジワイン) スチューベンや甲州などをブレンドした微かにオレンジがかったロゼ色で、甘酸っぱい印象のなかにほんのり苦味が残るチャーミングなワインです。専用のお玉で牡蠣・海苔・豚肉を揚げた名物スナック「UFO(海蛎餅)」など、旨味が凝縮されたお料理、名物「炖罐(ドゥングァン)香菇鸭(干し椎茸と鴨肉)」とも絶妙にマッチしました。その他もPinzhen’sさんのお料理にピッタリでした。
  3. 澤内醸造「MuscatBaileyA樽 “TARU2023″」(赤ワイン) 青森県南郷産のマスカットベーリーAを野生酵母で自然発酵させ、樽熟成させた一本。ピノ・ノワールを思わせる繊細さとエレガンスを備えており、サツマイモ生地で豚肉と海苔を包んだ「豚肉と海苔の餅包み(番薯丸)」や、お肉の旨味が溶け出した料理と見事な親和性を見せました。

■ 胃もたれゼロ!油を多用しない「新感覚・中華」の可能性

さまざまな温度帯や時間経過による変化を観察していきましたが、お店の温かい雰囲気とお料理、そして日本ワインの親和性は非常に高く、味わいがお互いを引き立て同調し合う素晴らしい会となりました。

中国料理でありながら油を多用せず、油脂分は控えめなのが福建省の料理の大きな特徴です。塩味がまろやかで、味が優しく胃に染み渡るようなお料理ばかりで、食べ終わった後には全く胃もたれを感じず、軽快な足取りでお店を出ることができました。

この「だし中華と日本ワインのペアリング」は、他にはない少し珍しい提案かもしれませんが、とても面白く新しい「未来体験」ができるので、ぜひ皆さまにも強くおすすめしたいです!油に頼らない福建省の料理と自然派の日本ワインの組み合わせは、これからもどんどん広がっていきそうな予感がします。

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